身体は前後・左右はもちろん上下や内外のバランスが取れることでより安定します。そして身体が安定すると軸をとらえやすく、身体感覚を得やすくなり、身体を伸ばしやすくなります。目で見えるバランスだけでなく、身体で感じるバランスも動きには重要です
つい力が入ってしまう、同じ所ばかりを使って痛みがある、もっと楽に動けるようになりたい、などの要望に筋膜の動きを滑らかにして動きの幅を広げ、無意識に行っているmovement(動き)のパターンに選択を増やして、意識や感覚で質の変わるパフォーマンスの幅を広げるきっかけを見つけることを重点に置いています
ロルファー:にいつ ゆきこ
太極拳を数年学ばれていらっしゃる40代の男性の方です。より武術のスキルを上げるために力の抜き方を体感したい。よく人から猫背を指摘されることもあり、猫背の改善も求められていました。手首の関節にしばらく前から痛みがあるそうです。もっと楽な呼吸が出来ると良いとおっしゃっていました。
目で見た太極拳の形を再現されていた為、動きの一つ一つを感じることよりも、腕の位置や足を置く場所に意識がいかれていました。肩や太ももに力が入りっぱなしのことも多かったので、深層の体軸を安定させて、力に頼らないでいられるように、今よりもっとコアに意識無向けられる身体感覚を得ていただけるようにしようと思います。
身体は前後・左右はもちろん上下や内外のバランスが取れることでより安定します。そして身体が安定すると軸をとらえやすく、身体感覚を得やすくなり、身体を伸ばしやすくなります。目で見えるバランスだけでなく、身体で感じるバランスも動きには重要です
つい力が入ってしまう、同じ所ばかりを使って痛みがある、もっと楽に動けるようになりたい、などの要望に筋膜の動きを滑らかにして動きの幅を広げ、無意識に行っているmovement(動き)のパターンに選択を増やして、意識や感覚で質の変わるパフォーマンスの幅を広げるきっかけを見つけることを重点に置いています
Aさんは呼吸のしづらさを感じていました。深呼吸をしようとすると身体に力が入ってしまいます。これは、普段の生活でAさんが骨盤を後ろに倒して、胸と腹部を縮めて座っている時間が長いことが影響しているようです。また横隔膜の広がりづらい点もあります。胸郭周辺の筋膜は胸骨や肋骨に糊づけされている様に、ぴったり付着して、あまり動きがありませんでした。胸や腹部を縮めて居ることが多いので、胸郭の動きが少なく筋膜もその位置で固定されていました。
筋膜の状態を改善しました。胸骨や鎖骨と癒着している筋膜を指先で圧を加えながらゆっくりほどいていきます。そして、横隔膜の付着部を触れながら、Aさんの呼吸に合わせて、呼吸が少しずつゆっくり大きくなるように、横隔膜の固さを解きました。胸郭周辺の筋膜や横隔膜に長さと柔らかさが出ると、上半身前側が解き放たれたようになりました。立ってみると、胸周りの広がりが出て背中がセッション前よりまっすぐになりました。Aさんは「呼吸をするたびに、胸が広がります。なんだか身体が軽く感じます」と言われました。
歩行時の脚の運び方が、スリ足をするようです。これは、足底筋膜が固くなってしまい、足裏をしならせることが難しくなっているからだと思われます。また足裏の筋膜が固いため、足裏の感覚があまりないそうです。
足底腱膜やふくらはぎの付着部をゆるめることで、ひざ下、足首、つま先の動きの緊張していない感覚を取り戻していただきました。足裏がゆるむと、立った時の一番下のサポートが安定するため、からだ全身の力を抜きやすくなります。Aさんは上半身がいつもより脱力しやすくなっていました。また歩幅も自然と広がり始めました。「前にとても進みやすい。つま先をきちんと感じることが出来る」とおっしゃっていました。
肩甲骨と脇の下をつなぐ小円筋・大円筋、そして首と肩甲骨をつなぐ肩甲挙筋の筋膜をゆるめました、こうすることで肩甲骨をはじめとする肩周りの緊張を取り、肩甲骨を感じられるようにました。小指と背中の後背筋の存在を感じながら肩のスペースが広がる様に、腕を動かすことで、首を長く、肩をおとしたまま腕を上げることが出来るようになりました。Aさんは「今までと肩の感覚が全く違う。新しい動きはまだ難しいけれど、からだに負担が無いのが分かります」とおっしゃっていました。
両腕を上げてもらうと、肩を上げて、首を縮めるように動作をされます。また左右両側から手を開く様に上げると、手が頭上ではなく、前寄りにきます。またずいぶん前から肘と肩に痛みがあり、違和感が残っているそうです。準備動作で腕を大きく回すことを繰り返すそうですが、その時に腕に痛みが走るそうです。これは、肩甲骨を上に持ち上げて腕を使っていること、そして肩甲骨と脇の下をつなぐ筋膜が癒着を起こして、肩甲骨が背中の外側で固まってしまっているからだと思われます。
脚を大きく広げて立った時に右側の重心移動が難しいです。これは左脚の内側に縮みがあり、左の内転筋が伸びづらく、骨盤と脚の動きに制限を与えているからです。左の内転筋は前後にある大腿四頭筋とハムストリングに癒着が見られました。
隣接している筋膜との癒着を剥がしました。また骨盤底筋と内転筋も癒着があったので、骨盤の坐骨枝に沿って、線維化している筋膜をリリースしながら、骨盤と脚の筋膜を区別化しました。セッション後はひざが自然に前を向くようになり、歩行時に後ろに脚が広がる様になり、自然と歩幅が広がりました。Aさんは「脚の内側に軸を感じます。グングン前に進むように歩けます」とおっしゃっていました。
歩行時、腹部にあまり動きが見られませんでした。これは、骨盤と腹部の筋膜に癒着があることと、腹部の前側の筋膜が縮んでいるからだと思われます。前のセッションで骨盤と脚との間に区別が出来ている分、骨盤の腹部の癒着は上半身を窮屈に感じさせてしまいます。このままだと、武術をする時も腹部を縮めて、背中を丸くする姿勢が取りやすくなり、身体を固くしてしまいます。
腹部の表層から深層までの4つの腹筋膜をすべて緩め、腹筋下にある、大腰筋にも十分な長さを引き出しました。腹横筋を意識してもらいながら、腹部を縮めずに、立位、歩行をしてもらいました。セッション後は脚に合わせて腹部も動き始め、より身体の各部位が緊張せずに動きに参加してくるようになりました。セッション後にAさんは「なんか不思議な感覚。お腹周りに動きが出てきました。最近今まで出来なかった呼吸法も出来るようになりました」とおっしゃっていました。
前回のセッションでお腹の広がりを感じるようになったのですが、大腰筋を動きの中でもっと体感したいとおしゃっていました。このときのAさんの身体は前側への広がりが出てきて、上半身もしっかり起きていました。歩行時は、前に前にと身体と意識が進行方向に行きがちで、背面側の存在感が少し欠けていたかもしれません。
脚全体の背面の筋膜のバランスを整え、仙骨の動きを引き出す様に、骨盤周りの筋膜の緊張をゆるめていきます。座った状態でお尻と腹部の前後の広がりを意識してもらう事で、内臓空間にゆとりを持たせ、大腰筋を働きやすくします。同じ動きを立った状態でも行ってもらいました。すると「パリントニシティ(逆の2方向へのひろがり)を初めて体感しました。自分の身体が足元へも頭上へも伸びて、立っていることが楽なうえ、とても安定しています」とおしゃっていました。
背中を持ち上げるように歩かれます。まだ肩に力が入っているためか、歩行時に腕が揺れにくく、ご自身で意識的に振っています。頭部が前に倒れ気味ですが、これはAさんがPCに向かう時間が長いので、近距離かつ1点に焦点を当てて視覚を使う事が多いので、無意識に眼が画面に近付き、頭部の位置を前寄りにしている可能性があります。
首と肩を結ぶ斜角筋に緊張をゆるませて、首に長さを引き出し、肩を降りやすくさせました。今まで頭部が前にいくことで、頚椎の前向きの湾曲(ゆるやかなカーブ)が失われていましたが、頚椎の前側にスペースを作るように椎体の関節に動きを出しました。すると、頭部の質量をAさん自身が感じられる様になり、顔が上を向きやすくなり目線が高くなりました。立った時にAさんは「視野が広くなっている。こんなにボ~っと見てもちゃんと見えるのですね。」とおっしゃっていました。
武術のテストがあり、予想以上にあっさりクリアされたとのこと。自分が思っている以上に、体内感覚が繊細になってきているようですとセッション前におっしゃっていました。肋骨が柔らかくなってきているのを体感される事が多いそうです。
肋骨の柔らかさと広がりがより歩行に繋げていけるように、身体の前側全体に伸びを出すセッションを行いました。もともとAさんは歩行時に上半身を前に倒して、腰を折る姿勢をしていました。この姿勢は身体の前側を縮めて使っているので、もっと身体の前側を伸ばす動きを得る事で、歩行時の身体の前後のバランスが整います。股関節や肋骨に広がりを持たせて力を溜めないようにしてから、つま先の動きを誘導しました。セッション後は「上半身がしっかり前を向く様になりました。あと最近は肩やひじの痛みを感じることはほとんどありません」とおっしゃっていました。
「太極拳のある技を行う際に、いままでは脚がプルプルしてきたのに、長い時間行っても疲れる事が無くなりました。いつの間にか力を抜けるようになってきているようです。」とコメントをいただきました。コメント通り、歩行時にも力を抜く事が出来てきて柔らかさが出てきました。ただ、からだのコア(中心)にもう少し安定が出てくると、より楽にそして安定した動きが出来るように思われます。
Aさんの場合、腹部の一番深層の腹横筋が立っている状態では活性しているのですが、歩行時に感覚が薄れるようでした。歩行時は、骨盤や背骨が常に動いています。そのため、骨盤や背骨をゆっくり微細な動きを与えながら腹横筋が機能するバランスを一緒に探していきました。
また歩行時には、つい身体の使い方を考え過ぎて、肩や胸部に力が入りやすいという事がありました。Aさんの場合は、まず目線を上げ、耳を外に開き、足裏を感じてもらって(この3つが揃うとバランスが取りやすくなります)から、体内感覚を感じやすい状態にして、再度歩行をすると、安定感が出てきました。
腹横筋が働いている感覚と休んでいる感覚を両方味わうことで、Aさんは自分の無意識の癖に気づきやすくなったようです。
ついつい頭で考えてしまい、感覚をつかむことが難しい方もいらっしゃいます。でも、必ず出来るようになるものです。目に見えない感覚こそが、身体の使い方を変えることも決して少なくありません。
前回のセッション後に2週間あきましたが、多少イライラした時期があったそうです。Aさんの身体の変化が速かったので、身体の変化のスピードに心が追い付いていなかったかもしれません。しかし、その怒りっぽい時期を過ぎたらスッキリして、からだが良く動くようになったそうです。
10回目のセッションでは、再度Aさんの大腰筋を扱いました。大腰筋が歩行時にもうすこし参加してくると、脚や腹部に伸びが出て、体軸(コア)の意識がはっきりとしてきます。まず寝た状態で感覚をつかむために、左右の大腰筋を動かしてもらいながら、身体の新しい使い方を学んでいただきました。後に立った状態で重力を感じながら、大腰筋から歩き始める感覚を身体にインプットしていただきました。Aさんは「重心があるべき位置にいる、そんな感覚です」とおっしゃって頂きました。
他にも「今まで身体の感覚を良くするために、数多くのもの試してきたけれど、こんなにも自分の身体の変化したものは初めてでした。そしてなにより、その良い変化が定着してもとに戻りにくいことに驚きました。」とコメントもいただきました。